高齢者向けeスポーツは、介護予防や地域支援の施策として取り入れる自治体が増えています。
本記事では、自治体にとってのメリットや全国の導入事例、事業化を進める際の実務上の課題や進め方をまとめて解説します。
委託先の選び方や補助金の活用法など、担当者が知りたいポイントも整理しましたので、ぜひご参照ください。
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1.いま自治体が高齢者向けeスポーツに取り組む理由

近年になって全国の自治体が高齢者向けeスポーツに取り組んでいる主な理由は、介護予防や地域支援事業といった既存の政策目標に位置づけやすいためです。
2025年6月には一般社団法人日本eスポーツ協会(JeSU)が自治体向けの導入ガイド「高齢者のつながりと健康を育むデジタルアクティビティのすすめ」を公開しました。
公益財団法人東京市町村自治調査会の調査研究でも、eスポーツの特性を政策課題の解決に活かす動きが全国で始まっていると報告されています。
参考:一般社団法人日本eスポーツ協会「自治体関係者を対象とする「高齢者eスポーツ導入ガイド」公開のお知らせ」
参考:公益財団法人東京市町村自治調査会「地域課題の解決に向けたeスポーツの可能性に関する調査研究報告書」
2.自治体がeスポーツを導入するメリット

高齢者向けeスポーツは、高齢者本人への健康効果だけでなく、自治体が施策として取り組む上でもいくつかのメリットがあります。
ここでは、自治体がeスポーツを導入するメリットを整理します。
(1)複数の政策分野に横断して活用できる汎用性
eスポーツは、高齢者福祉だけでなく共生社会の実現、教育、観光・産業振興など複数の政策分野に横断して活用できる点が魅力です。
東京市町村自治調査会の報告書では、eスポーツの持つ年齢・性別・障害の有無によらないインクルーシブ性が、こうした複数分野での活用を可能にしていると指摘されています。
また、高齢者福祉の文脈ではフレイル予防(社会性の低下の抑止)やデジタル・ディバイドの解消といった目的に位置づけやすいことが示されています。
出典:公益財団法人東京市町村自治調査会「地域課題の解決に向けたeスポーツの可能性に関する調査研究報告書
(2)住民からの肯定的な受け止めやすさ
eスポーツ事業は、住民からの理解を比較的得やすく、合意形成を進めやすい施策だといえます。
東京市町村自治調査会が多摩・島しょ地域の住民を対象に行ったアンケートでは、行政のeスポーツ事業への取り組みについて6割以上が肯定的と回答しています。
年齢や性別、国籍、身体能力や障害などに関係なく参加できる点が、肯定的な印象を持たれる主な理由として挙げられています。
出典:公益財団法人東京市町村自治調査会「地域課題の解決に向けたeスポーツの可能性に関する調査研究報告書
(3)公共施設の有効活用・地域コミュニティの維持
新たな施設整備を伴わずに地域コミュニティの活性化につなげられる点も、自治体がeスポーツを導入するメリットです。
老人センターや地区センターなど、既存の公共施設を会場として活用できるためです。
埼玉県入間市のモデル事業では、既存の地区センターと分館の2拠点を会場に実施しており、新たな施設を整備せずに高齢者が普段から集まりやすい場所を活用しています。
出典:PR TIMES「高齢者がゲームで若返る?入間市がeスポーツで健康革命に挑戦」
(4)政策目的への接続のしやすさ
eスポーツは「フレイル予防」や「デジタル・ディバイドの解消」など、自治体がすでに掲げている政策目標の実現手段として活用可能です。
そのため、eスポーツを活用した事業であれば狙いを庁内に説明しやすく、理解を得やすいといえます。
東京市町村自治調査会の提言でも、目的別の具体的な取組例が示されています。
たとえば、「フレイル予防には出張eスポーツ講座」「デジタル・ディバイドの解消にはスマートフォン相談会への誘導」などが主な取り組み事例です。
3.全国自治体のeスポーツ導入事例
ここでは、実施体制の観点から特徴的な自治体の取り組みを紹介します。
(1)入間市(埼玉県)

入間市は2025年5月から、「宮寺・二本木地区eスポーツモデル事業」を開始しました。
宮寺・二本木地区センターと同分館の2拠点を会場に、地域包括ケアシステムの一環として位置づけられているのが特徴です。
また、地元の武蔵中学校の生徒や学生ボランティアと高齢者の交流機会を設けている点も特徴的だといえます。
事業の前後にアンケートを実施して介護予防効果を検証し、効果が実証されれば市内全域への展開も視野に入れています。
(2)仙台市(宮城県)

仙台市は、NTT東日本宮城事業部・東北福祉大学・仙台eスポーツ協会との産官学連携協定を2022年に締結。
青葉区の台原老人福祉センターを拠点に共同実証実験を実施しました。
以下の役割分担のもとで、歩行速度・握力・認知機能テストを事前・中間・事後の3回にわたって測定しています。
- NTT東日本:体験会の運営
- 東北福祉大学:身体への影響分析
- 仙台eスポーツ協会:ゲーム選定
- 仙台市:デジタル機器活用の実態調査
(3)秋田県

秋田県社会福祉協議会は2025年度、秋田大学高齢者医療先端研究センターの大田秀隆教授と連携。
秋田市・由利本荘市で高齢者向けeスポーツを活用したフレイル予防活動を展開しました。
地域住民が、週1回程度継続して参加する形式をとっています。
検証の結果、軽度認知障害(MCI)の症状が見られた参加者が10%以上減少したとの報告もあり、大学と連携した効果検証の一例として注目されています。
(4)福島市

福島市は、単独の施設を持たず、既存のイベントに合わせてブースを出す形で取り組んでいます。
市内飯坂町を拠点とするeスポーツチーム「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」や地域の福祉・医療関係機関と協力。
市内の各種イベントでシニア向けeスポーツ体験ブースを設置しています。
福島市はこの取り組みを、体を動かす「動くフレイル予防」と、人とのつながりをつくる「つながるフレイル予防」の両方につながる新しい介護予防と位置づけています。
(5)亀岡市(京都府)

京都府亀岡市は、全国の自治体に先駆けて自治体のeスポーツ専用施設(京都サンガスタジアムのeスポーツZONE)を活用したモデル事業を展開しています。
亀岡市総合福祉センターなどで体験会・講習会を重ね、平均年齢70.5歳のシニアチームが2025年の大阪・関西万博で開催されたシニアeスポーツ大会に出場しています。
大会参加を目標に据えた、継続的な取り組みが特徴です。
(6)三条市(新潟県)

新潟県三条市は、副市長主導で「eスポーツを活用した高齢者介護予防及び多世代等交流事業」に取り組んでいます。
委託事業者の選定には公募型プロポーザル方式を採用し、市内の複数のいきいきセンターや介護予防教室の会場で月1回程度、継続的に体験会を開催しています。
事業評価にあたっては効果を可視化できるかを含む評価ポイントをあらかじめ設定しており、調達プロセスと効果測定の設計を明確にした進め方が特徴です。
(7)大府市(愛知県)

愛知県大府市は、プロeスポーツチームと地元通信会社に運営を委託し、市内の児童老人福祉センター内にeスポーツルームを常設しています。
愛知県の「オレンジタウン構想」、大府市の「ウェルネスバレー構想」という上位の政策構想に取組を位置づけている点が特徴です。
認知症・フレイル対策という、既存の政策目標に紐づけた形で事業を進めています。
(8)美里町(熊本県)

熊本県美里町は2020年、熊本eスポーツ協会と連携協定を結び「eスポーツでいい里づくり事業」を開始しました。
2023年11月には佐賀県大町町と連携して自治体間の「高齢者eスポーツ交流会」を開催。
また、県内では合志市・山鹿市など複数市町によるリーグ戦形式の「自治体対抗戦」も行われており、単独の自治体にとどまらない広域連携の事例として参考になります。
4.自治体のeスポーツ導入において直面しやすい課題

自治体が高齢者向けにeスポーツを導入する際には、次のような実務上の論点を事前に整理しておく必要があります。
(1)ゲームソフトの商用利用許諾
施設や自治体でのゲーム利用は私的利用とは異なり、商用利用とみなされる場合があります。
使用するゲームソフトによっては、発売元・ゲーム会社への利用許諾の確認が必要になるため、事業設計の早い段階で確認しておくことが望ましいといえます。
(2)継続予算の確保
継続予算の確保も、実際の運営においては問題になりやすいポイントの一つです。
多くの自治体では、まず単年度のモデル事業として小規模に開始し、効果検証の結果を踏まえて次年度以降の本格予算化を判断する段階的な進め方をとっています。
入間市のように「効果が実証されれば市内全域展開を検討する」との位置づけは、予算化の合意形成を進めやすい手法の一例です。
(3)効果測定の設計
導入時に考えるべき点としては、効果測定の設計も挙げられます。
仙台市や秋田県の事例のように、大学・研究機関と連携して認知機能テストや歩行速度などの指標を設計するケースが増えています。
庁内だけで効果測定の枠組みを完結させるのが難しい場合、大学や地域のeスポーツ協会など外部機関との連携も検討するとよいでしょう。
(4)担当部局・人員体制の調整
高齢者向け施策へのeスポーツ導入を進めていく上では、担当部局・人員体制の調整も不可欠です。
高齢福祉を担当する部局が主担当となるケースが多い一方、産学官連携型を選ぶ場合は複数部局や外部機関との調整が必要になります。
運営そのものを委託業者や地域のeスポーツ協会に任せる形にすれば、庁内の人員負担を抑えながら進めることも可能です。
ストラーツでは全国の自治体のeスポーツ導入をサポートしています。サービスの概要は、以下よりご覧ください。
(5)委託先の選定
委任先をどこにするのかも、大きな課題の一つです。
委託先を選ぶときは、複数の事業者から企画を出してもらって比べる「プロポーザル方式」がおすすめです。
価格だけでなく、実績や提案内容も見て選べるため、専門性の高い事業者を見つけやすくなります。
新潟県三条市でも、この方式で委託先を決めています。
5.高齢者向けeスポーツ事業を検討する際の進め方

実際に事業化を検討する場合、次のようなステップで整理すると全体像をつかみやすくなります。
(1)目的を整理する
導入の検討にあたってはまず、以下のように目的を決めます。
- 介護予防
- 多世代交流
- デジタル・ディバイドの解消
目的が決まると、次に紹介する5つの実施体制のうち、どれが向いているかも見えてきます。
(2)実施体制を検討する
次に、自庁の予算規模や人員体制に応じて以下のように実施体制を決めます。
| 名称 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 施設活用型 | 老人センターなど、今ある施設を会場にする | 小さく始めたい |
| 大学連携型 | 大学と組んで、効果を測定しながら進める | 効果を数字で示したい |
| 多機関連携型 | 地域のeスポーツチームや福祉機関と協力する | 準備の負担を抑えたい |
| 大会参加型 | 大会やイベントへの参加を目標にして続ける | 続ける動機づけをつくりたい |
| 広域連携型 | 近くの自治体と一緒に取り組む | ひとつの自治体だけでは規模が小さい |
予算や人手に合わせて、実施方式の選択・組み合わせをするとよいでしょう。
(3)予算を確保し、連携先を決める
次に進めるのが、連携先や予算の確保です。
eスポーツの導入を1つの自治体だけで進めるケースは、実は多くありません。
民間事業者や大学、地域のeスポーツ協会などと協力しながら体制をつくる自治体がほとんどです。
体験会や大会の企画・運営そのものにノウハウがない場合は、イベントの企画運営を専門とする会社に相談するのもひとつの方法です。
株式会社ストラーツでは、高齢者向けeスポーツイベントの企画から当日の運営まで、自治体・施設のご担当者様をサポートしています。
高齢者向けの施策にeスポーツの活用を検討している担当者の方は、ぜひ以下よりストラーツのサービス内容をご覧ください。
(4)効果を測り、次につなげる
施策を実施したら、効果を計測して次の計画につなげましょう。
モデル事業の段階で効果測定の指標を設計しておき、結果を踏まえて本格実施や他地区への横展開を判断します。
6.自治体のeスポーツ導入についてよくある質問

ここでは、自治体のeスポーツ導入についてよくいただく以下の質問について、回答を紹介します。
(1)自治体が高齢者向けeスポーツを導入する一番のメリットは何ですか
複数の政策目標に使える点と、住民の理解を得やすい点です。
eスポーツは介護予防だけでなく、共生社会づくりや観光振興など、いろいろな目的に活用できます。
行政がeスポーツに取り組むことについて、6割以上の住民が良い印象を持っているという調査結果もあります。
(2)高齢者向けeスポーツ事業は自庁の職員だけで運営できますか
できますが、外部に頼る自治体が多いです。
委託業者や大学、地域のeスポーツ協会と協力しながら進めるケースがほとんどで、外部の協力を得れば庁内の人手が少なくても始められます。
必ずしも庁内人員だけで完結させる必要はなく、目的や規模に応じて外部の企画運営会社に相談することも検討してみるとよいでしょう。
(3)どのくらいの予算規模を想定すればよいですか
まずは、小規模なモデル事業として始める自治体が多いです。
単発の体験会から始め、効果が見えてきたら予算を増やすという進め方も考えられます。
具体的な金額は事業者によって差が大きいため、個別に見積もりを取ることをおすすめします。
(4)効果測定はどのように行えばよいですか
仙台市や秋田県の事例のように、大学・研究機関と連携して認知機能テストや歩行速度などの指標を設計するケースが多く見られます。庁内に知見がない場合は、地元の大学や医療系の研究機関に相談してみるとよいでしょう。
(5)個人として高齢者がeスポーツを始める際の情報はどこで見られますか
高齢者ご本人やご家族向けの始め方・おすすめゲーム・費用の目安については、以下のページで詳しく解説しています。こちらも、あわせてご参照ください。

(6)近隣自治体と連携して実施することはできますか
美里町が佐賀県大町町と連携して自治体間の交流会を開催した例や、熊本県内の複数市町がリーグ戦形式で「自治体対抗戦」を行っている例のように、単独の自治体にとどまらず近隣自治体と連携して実施するケースもあります。
単独では参加者数や話題性の確保が難しい場合、広域連携も選択肢のひとつです。
(7)都道府県の補助金制度は活用できますか
自治体によっては、eスポーツイベントの開催を支援する補助金制度を用意している場合があります。
高齢者施策に限定されない制度もあるため、まずはお住まいの都道府県の該当部局に確認してみることをおすすめします。
7.まとめ
高齢者向けeスポーツは、高齢者本人への健康効果だけでなく、複数の政策分野に横断して活用できる汎用性や住民からの合意形成のしやすさなど、自治体にとってのメリットも数多く存在します。事業化にあたっては基本的な実施パターンを踏まえ、自庁の目的や体制に合った方式を選ぶことが大切です。
また、ゲームソフトの利用許諾関係の確認や、単年度のモデル事業から本格予算化への段階的な進め方など、実務上の論点を早い段階で整理しておく必要があります。
大学や地域のeスポーツ協会、委託事業者など外部との連携も、必要に応じて検討しましょう。
体験会や大会形式のイベントの企画・運営に不安がある場合は、専門の事業者に相談することも選択肢のひとつです。
eスポーツのイベント導入を検討しているご担当者様は、株式会社ストラーツへぜひご相談ください。eスポーツイベントの制作経験豊富な担当者が、導入の目的を丁寧に確認したうえで企画・運営まで一貫してサポートします。


